笠井潔/野間易通「3.11後の叛乱 反原連・しばき隊・SEALDs」(集英社新書)-2

笠井潔/野間易通「3.11後の叛乱 反原連・しばき隊・SEALDs」(集英社新書)-1の続き。

 2013年2月に呼びかけがあって同年9月に解散した「レイスストをしばき隊」。「しばき」という語感に惑わされてか(意図的な誤解か)、「しばき隊」には悪評が目につく。後半では「しばき隊」の設立の経緯と活動の概要が紹介される。それ自身も十分面白いが、ツイッターでは元「しばき隊」員の昔話が時折披露されて、それも面白いのだよ。ここでも、本文でふれられたできごとのまとめや動画を紹介。この中にはヘイトスピーチが含まれることがあるので、あらかじめ伝えておきます。閲覧にはご注意ください。


第6章 レイシストをしばき隊のこと(野間易通) ・・・ 21世紀の反レイシズム運動の歴史。転換期は2013年冬。新大久保のヘイトデモと前後の「お散歩」がひどくなってから。これにKポペンが反応し、ヘイトデモの「カウンター」が呼びかけられた。このときに、プラカ隊、ダンマク隊、知らせ隊等ができて、デモにサイレントのカウンターが起きる。同時期に狭義の「しばき隊」ができた。2015年の2月9日、3月17日、4月21日、6月30日、9月8日の新大久保デモ。
新大久保で反韓デモを行ったかいちょー @Doronpa01 に対する反応まとめ(Kポペンたちのネット上の反応)
新大久保で反韓デモを行ったかいちょー @Doronpa01 に対する反応まとめ - Togetter
2013/2/1 「レイシストをしばき隊」呼びかけへの反応
「レイシストをしばき隊」呼びかけへの反応 - Togetter
しばき隊最初の出動 - C.R.A.C's very first action in Shin Okubo, Shinjuku. 2013.2.9
www.youtube.com
プラカ隊資料
【プラカード隊】大阪で行なわれた民族浄化・ヘイトクライム扇動デモ(3・24)に約70名がプラカードを掲げてカウンター - Togetter
★★決定★★【6.30 #差別デモ反対の意思表示 in 新大久保】プラカード掲示の呼びかけ - Togetter
(ここでは東京の、さらに新宿での出来事を記述。この「カウンター」が大阪、京都、川崎、札幌、名古屋、福岡などでも行われ、似たような形態と地域ごとの違いをだして行われた。特徴はリーダーがいない、組織がない、創意と模倣が同時進行、SNSを使った情報伝達と意思の共有、人格批判のない相互批判、いいだしっぺがやる、自腹とドネーション、あたり。)

第7章 大衆蜂起と結社(笠井潔) ・・・ 狭義のしばき隊を1848年パリ革命のブランキ「四季協会」と比較する。
(これがピンボケだと思うのは、狭義のしばき隊は2013年2月に結成して同年9月にイシューを達成したとして解散したこと。ブランキ「四季協会」のように人生を活動に捧げることをメンバーに強制しないこと。ヘイトデモの現場で抗議したものはしばき隊やほかの組織には属さない人が多数だったこと(SNS等で情報入手して、事前うちあわせなしで単独でやってきた。現場の行動もSNSの指針を読んでそれを遵守した)。21世紀の反レイシズム運動は社会や体制の変革や革命をまったく志向せず、公正を実現しろという保守。)

第8章 人々を路上へとドライブするもの(野間易通) ・・・ 「現場にはビジュアル的にある程度の統一感を持った、明確な意志を体現する大衆がその日その時間だけ現れることになる。そして行動が終われば、雲が消え去るようにその場から消えていくのである。」「現在の社会運動においては、政党や組合や結社といった強固なつながりを持つ組織ではなく、社会問題の各イシューを通じて形成される集合的アイデンティティのようなものが動員の直接的要因となっており、『3.11後の叛乱』の多くはその形式で行われているのである」
2013.6.16 新小久保ヘイトデモのまとめ
【新大久保】「ゴキブリ・ウジ虫!」「皆殺シ」「来ルナ帰レ死ネ」…またもヘイト全開となった新大久保デモ(6・16) - Togetter
2013.6.30 新小久保ヘイトデモのまとめ
【新宿デモ】新大久保に立ち入れなかったヘイトデモ隊と、レイシズムにノーを突きつけるために集まった人々(6・30) - Togetter
2013.9.8 「東京韓国学校無償化撤廃デモin新大久保」まとめ
【新大久保】「韓国人襲撃はグローバルスタンダード!」「韓国学校を叩き出せ!」-案の定、デモの趣旨は守られなかったヘイトデモ(9・8) - Togetter
2013.9.8新大久保ヘイトデモへのカウンター シットインは25:00ころから。
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第9章 〈2011〉と「左翼」の終わり(笠井潔) ・・・ ブランキ「四季協会」について。しばき隊にオルグがないこと。大衆蜂起の可能性。
(著者は1980年代に「マルクス葬送派」を名乗っていたのだが、どうしてもマルクス主義とその運動から関心を離れることがなく、21世紀の世界同時的な諸運動を過去の左翼運動との対比で考える。なので類似にフォーカスして、左翼のビジョンやミッションで21世紀の諸運動をとらえようとする。なので、回顧談ばかり。なんでかつての左翼との差異にフォーカスできないのかねえ。あと安田浩一「ネットと愛国」講談社によると、「在日特権を許さない市民の会」もオルグはない。ネットをみて「自主的に」参加するものだけで構成される。)

第10章 Struggle For Pride(野間易通) ・・・ 反レイシズム運動の特長。実務集団。実務の違いで分裂。しかし反目はない。分裂するほど強くなる。デモでは「おれは誰か、どこに所属しているか」よりも「何を主張しているか」を示す。結集するが団結しない。運動よりも個人の平穏な日常生活を大事に。個人が個人の立場のままで行う悪戦苦闘。教義も教会も修道院も持たない新たなレフトの誕生。
「何のために闘うのか。権力のためか。自由のためか。民主主義のためか。結局行き着くところは、シンプルに個人の尊厳と誇りのためだと言うことができるのではないか。」
(このあたりは著者のツイートなどで確認できたこと。こうやってまとめられてうれしい。)


 以下も参考になる。


 2014年以降の反レイシスト運動は、別エントリーに少しまとめておいた。ご参考に。
 野間易通がいうように、反レイシスト運動にしろ戦争反対の運動にしろ、理論はある。それはSNSで語られ、評価されて、ブラッシュアップされて、模倣と反復があって、拡散して、変更されていき、ゆるく共有されている。でも理論書はない。誰か個人なり組織なりの「オリジナル」な考えはないから(なにしろ組織がないから幹部会はもちろん理論センターや書記局がないものな)。前半の章で人の集まりをクラウドにたとえていたが、理論に関してもクラウドに「ある」。たぶん上にリンクした諸種の運動や「カウンター」のまとめにある個々のつぶやきから浮かび上がってくるかもしれない。でもそれは日々(というか時に数時間で変わっていく(「We Are SEALs.」まとめ参照)。未来の歴史家は21世紀初頭の成果同時的な諸運動をまとめるのに苦労しそうだが、大量のつぶやきや動画がネットに残されているので(運営会社がつぶれたら一気に消失するりすくがある)、文書の代わりにネットの海にダイブして調べてください。
 世界が戦争からテロへ、収容所からジェノサイドへ、共生から排外主義へと、変わっていこうとする。自由や公正や個人を守るための希望としての反原発、反レイシズム、戦争反対の運動。自分はこちらに参加する。